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福岡高等裁判所 昭和32年(ネ)795号 判決

控訴人(原告) 荒木辰雄

被控訴人(被告) 有明村議会

原審 長崎地方昭和三一年(行)第八号(例集八巻七号130参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す、昭和三十一年三月十七日施行の被控訴人有明村議会の議長選挙において、被控訴人議会が馬渡清吉を当選者と定めたことにつき控訴人が被控訴人議会に対しなした異議を却下する旨の被控訴人議会の決定は無効であることを確認する。控訴費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の、事実上及び法律上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は、原判決の当該摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

本件に対する当裁判所の判断は、左記の点を補足する外、原判決の理由に記載せられたところと同一であるから、ここにその記載の全部を引用する。

地方自治法第百十八条によつて準用せられる公職選挙法第九十五条第二項によれば、当選者を定めるに当り、得票数が同一であるときは、選挙会において選挙長が籖で定めることとなつているが、本件村議会の議長選挙において、馬渡議員と控訴人とは得票数が同一であつたから、そのいずれを、当選者と定めるかについては、本来は右法条により籖によつて定めるべきものであるところ、多少の経緯はあつたが、結局抽籖によつて馬渡議員が当選者と定められたものであり、且その抽籖によつて当選者を決定する手続が公正に行われたことも、原判決の認定したとおりである。もつとも原審証人中村金十郎、同上北島州治(いずれも第一、二回)同上塚本喜代蔵、同上木村重一、同上成瀬高司、同上青木武人の各証言を綜合すれば、被控訴人有明村議会(以下単に村議会と略記)は、最初から抽籖を以て当選者を決定しようとしたものではなく、村議会は馬渡議員と控訴人の両名が全議員の面前において相対立して争い、たとえ抽籖によるとは言え、議場において勝敗を争う形式を以て、両名のうちいずれかを議長として選択決定することは、村議会の平和の為適当ならずとして、両者のうち、いずれを当選者と定めるかを村長及び臨時議長北島州治に一任し、かくして選ばれた者を当然に(重ねて村議会の承認を要せず)当選者とする旨を控訴人を含め、全議員一致で議決したので、村長及び臨時議長は別室で協議したが、両者の優劣を決すべき格別の標準もなく、その選択に困つた結果、結局抽籖の方法によつて馬渡議員を選択し、これを議場に報告したところ控訴人を除く他の議員全部が右抽籖の方法による選択決定を承認し馬渡議員を以て当選者としたものであること、及び村議会が馬渡議員と控訴人のいずれを、当選者とするかの選択を、村長及び臨時議長に一任した際には、その選択の標準乃至方法については何等の制限をもしなかつたもので、要は対立抗争的形式を避け、公正且平和裡に決定されれば足る趣旨であり、その選択決定につき適当な標準乃至方法がない場合にも飽くまで抽籖の方法によるべからずとする趣旨ではなかつたことを認め得る。従つて、村議会の委任の趣旨は村長及び臨時議長がこれを決するに際し、必ずしも両者の人物、経歴、手腕その他を標準として選択決定しなければならないというわけでなく、かかる標準によつても決し難いときは抽籖の方法を以て決しようと或は年長者を当選者としようと、或はその他の方法によろうと、何等議会の委任の趣旨に反しないのであるから、(但し抽籖以外の方法によつて定めることが適法か否かは別として、村議会の委任の趣旨はさうであつたから)臨時議長等が抽籖の方法によつたことは、村議会に代り、村議会の機関として、これを行つたものというべく、これを以て同人等が村議会の議決に基かず、勝手に抽籖をしたものということはできない。従つて村長及び臨時議長が抽籖の方法によつたことは、結局において村議会が地方自治法第百十八条、公職選挙法第九十五条第二項に準拠して当選者を決定したことに帰着するから、村議会が馬渡議員を以て村議会議長の当選者としたことについては何等違法の点はない。

よつて、控訴人の本件請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 中園原一 中村平四郎 亀川清)

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